利用者様の『課題になる行動』は、ご本人を知るチャンスになるんじゃないかってお話
初めましての方もそうでもない方こんにちは。
生活介護笑の支援員をしている西です。
生活介護笑は、東京都あきる野市にある障害者の通所施設です。
通所されているのは、主にASD(自閉症スペクトラム障害)と重度知的障害のある方々になります。
西がブログを担当する時には、笑の利用者様への取り組みのご紹介をしているわけですが、今回も取り組みを紹介してみたいと思います。
『課題となる行動』→それは「片づけが好き」
「片づけ」が好きと聞いて、皆さんはどのように感じますか?
一般的に片づけは、「課題となる行動」と言うより、ぜひやってもらいたい「期待される行動」と捉えられることが多いのではないでしょうか。
しかし、自分の物を片づけているうちは「期待される行動」ですが、他人の物を強引に片づけてしまうようになると途端に「課題となる行動」となります。
そんな「他人の物を強引に片づけてしまう」T様を今回ご紹介します。
T様は、ASD、重度の知的障害があり、てんかん発作も持っているので常にヘッドギアを付けて生活しています。
表情豊かで、スタッフと目が合うと満面の笑みを返してくれます。
T様はこの「片づけ」に非常に執着する事があり、時には強引な行動に出てします事もあります。
特に執着するのは、次の通り
・お茶の時間のコップ
・食事を終えた食器類
どちらについても、他の利用者様の状況が気になってフロアを歩き回って確認に終始する事が多いです。
終わっていない利用者様を見つけると、「無理やりお茶を飲ませようとする」「無理やり食べさせようとする」など極端な行動が見られることもあります。
やる事がないから、『片づけ』が気になるのかな?
まず、ポイントとしたのが「やる事がないから『片づけ』に注目してしまう」
いわゆる、「ASDの注意・注目の特性」です。
やる事が明確にあれば、「片づけ」が気にならなくなるのではないかと考えたわけです。
お茶を飲んだ後、昼食を食べた後に自立課題(*自分で始めて終われるように、個別に用意をした課題の事)に取り組んでいただくようにしました。
それでも、集中できず課題の途中で離席し強引な行動に出てしまうので、職員が止めらざるを得ないことも頻繁にありました。
特に片づけに強い注意が向いている時には、個別でドライブに行くなどして強引な行動が起こらないように支援していました。
このような支援を続けて行って、一定程度活動が定着してくると「片づけ」の行動も徐々にですが消失していきました。
これで平穏な笑の日常が戻ってきたわけです。
T様自身の『片づけ』への注目がなくなるわけではない
強引な行動が消失してくると、少しずつ自席の環境や自立課題の個数や内容などT様が過ごしやすいように活動の内容を変えていきます。
活動の内容が整理され、余裕のある時間割になってくると気になることは再燃したようです。
最初は、お茶の時間からでした。
T様自身がお茶を飲み終わると「他の利用者様がお茶を飲み終わっているのか」「コップは片付いているのか」などを気にして、フロアを歩いて回るようになっていきました。
あれよあれよという間に時間が経過していくと、行動は段々エスカレートしていきます。
フロアをグルっと見て回るだけだったものが、飲んでる最中の利用者様の自席に近づこうとしたり、カーテンを閉めている利用者様のカーテンを開けてみたり、全ての利用者様がお茶を飲み終えたことを確認するまで活動に取り組めなくなっていきました。
「スタッフが他の利用者様のお茶を運んでいる」「キッチンの扉の開く音が聞こえる」などすると目の色が変わり、自席で過ごすことが出来なくなります。
「片づけ」の注目が再燃です。

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「課題の行動」への対応と直接的には違うところに突破口があった
T様にとって「片づけ」と言うのは、「いつもと同じ状態(同一性の保持)になる」ことに繫がっていると考えました。
・コップの置かれる場所を視覚的に明確にして、「コップがあることがいつも通り」を学んでもらう
・飲み終わった利用者様から、早々にコップや食器を片づけていち早くいつもと同じ状態に戻す
など取り組みましたが、行動は収まらずエスカレートしていくばかりでした。
スタッフがついて回ったり、T様が気にしている利用者様の自席そばに常にスタッフがいるようにして、自席に誘導しなければいけない毎日が続きました。
T様も力づくで突破しようとすることもあり、早急な対策が必要でしたが中々対応策も思い浮かばず・・・
そんな中でも一生懸命考えていると、考えが舞い降りてくることもあるんです。。。
「もしかしたら、T様自身がお茶を飲んで(ご飯を食べ終わって)しまうと他の方が気になるのかもしれない。」
そんな風に考えたら、早速実践してみます。
実践したことそれは・・・
「外活動から戻ってお茶」と言うスケジュールを「外活動から戻ったら、自立課題をやってからお茶」
と、活動の順番を変更しました。
他の利用者様がお茶を飲んでいる時間には、自立課題に取り組んでいただき、T様がお茶を飲む時には他の利用者様は飲み終えている様に変更したわけです。
ある日、試しに変更したスケジュールで活動してみると、スタッフ一同「ビックリ」
多少、周囲を伺ってはいるものの離席せずに自立課題に取り組むことが出来たのです。
それから、何度も何日も試してみましたが、「片づけ」を気にして極端な行動に出ることはなくなりました。
いったいT様の中で何がおこったのでしょう
T様の注目が「片づけ」に向きやすことはすでに記載しました。
お茶の前の時間、自立課題に取り組んでもらうことで、「『片づけ』に注目が向かなかった」可能性はあるでしょう。
ですが、以前お茶の後に自立課題に取り組んでもらっても、「片づけ」から注目は逸れませんでした。
どうもASDの「注意注目の特性」だけでは、今回のことは説明できそうにありません。
前提として、T様が「片づけ」に気持ちがむかないように「何か活動を提供する」のは必要そうです。
明確に「やるべきこと」を提供して、片づけに注目が向かないように支援することに変更ありません。
なぜ、こんなに大きな違いが出たのでしょう。
たとえば、「(活動の)始まり」「(活動の)終わり」に注目して考えてみるのはどうでしょうか。
〇お茶(ご自分の食事)の時間が始まらなければ、「片づけ」が気にならない。
そもそも始まっていない活動であれば、T様にとって「片づけ」を気にする理由が無いのかもしれません。
〇T様自身がお茶を飲み終わる(食事を食べ終わる)と、「片づけ」が気になる。
T様自身が活動を終えると、他の方が終わっているのか等気になるようです。
これは、T様が経験から学んだことから始まったのかもしれません。
改めて「課題になる行動」を、ご本人を知るきっかけにしたい
利用者様に支援を提供しいると、多くの「課題になる行動」に対応します。
時に支援者が頭を抱えてしまうような行動も見られます。
そんな時、支援者はご本人に「行動をかえること」を求めてしまいがちになります。
しかし、私たちが「課題」としている行動が「利用者様にとって意味がある」ということはないでしょうか?
ASDの方々は、私たちと違う文化で生きていると言われることもあります。
私たちにとって「なぜ?」と思う利用者様の行動も、「利用者様にとって必要な行動かもしれない」と視点を変えてみたいところです。
~違いがあるから面白い~
障がい福祉は、まさにそんな文化と文化の交流地点、利用者様のその人らしさに出会える場所なんです。
お付き合いいただき、ありがとうございました。