支援者は「出来ていること」「すでにやっていること」を忘れてしまいやすいってお話

毎日が暑くて暑くて飽き飽きしている今日この頃。

初めましての方もそうでない方も生活介護え笑みの西です。

私たち生活介護笑は、東京都あきる野市にある障がいのある方が通う通所施設です。

通って来られる方の多くは、ASD(自閉スペクトラム症)や重度の知的障がいがあり多くが強度行動障がいのある方々です。

そんな笑の利用者様のエピソードをちょっとご紹介しようと思いますので、お付き合いください。

物を壊してしまうY様

今回ご登場いただくのは、Y様です。

長年障害者支援施設の入所支援をご利用されていたY様ですが、笑の利用に合わせて当法人のGHに入居されました。

いつもと同じ「ルーチン」を好む一方、変化が苦手で予期せぬ変化があるとご自分の手を噛む、物を壊してしまうため、壊された課題や洋服は数知れずです。

逆に同じ色を合わせる「色マッチング」は、非常に得意です。

そんなY様の得意を活かして自立課題を提供していますので、「絵と絵を合わせる」「色カードを分ける」「ビー玉を同じ色の穴に入れる」と言うような課題が中心です。

しかし、得意なことでも新しい課題を提供する時には、受け入れられず壊してしまいます。

そんな時もスタッフは修理を繰り返しながら、根気よく提供し続けます。

壊して 直して 壊して 直して・・・・

そんな事が2週間ほど続くと受け入れることが出来るのか、課題を壊すことはなくなり毎日期待通りに取り組むめるようになります。

マイルールになっていくY様

順調に受け入れた課題に取り組むY様ですが、提供の期間が長くなると段々と独自のルールでの取り組み方になって行きます。

・絵ごとに分けるのではなく、順番に並べるだけになる

・洗濯バサミを印に合わせず、ピタリと寄せて組み立ててしまう

・ビーズを色分けする課題で色ごとにきれいに並べてしまい、期待される取り組みにならない  

などなどです。

そんな時、スタッフは再度期待する仕上がりになる様に修正しようとするのですが、一度ご自分で決めたことは再修正が出来ません。

なぜなら、「Y様は変化に弱い」からです。

一度決めたことを修正するのはY様にとっては「変化」なんでしょうね。

スタッフの悩みは尽きません。

Y様のことをモット知りたい

生活介護笑では、午前と午後に一回ずつ近くの都立公園までお散歩に行きます。

これにはY様ももちろん参加しています。

ある日通院の予定があり、午前中室内に残らなければならない日がありました。

試しにY様専用の自立課題とは別の課題を提供してみることにしました。

取り組んでもらう課題は、「4色の色カードを同じ色のケースに分類する課題」です。

これまでのY様の観察から、取り組める可能性が高いとは予想していました。

しかし変化が苦手なY様に試みるには、なかなか悪条件でした。

・いつもと、活動の流れが違う(通院が入ってた)

・グループの中で、自分だけスケジュールが違う

・当然ですが、やったことのない自立課題に取り組んでもらう

取り組んでもらえるように様々な環境づくりを行いましたが、当日までドキドキは尽きませんでした。

しかし、スタッフの心配をよそにスムーズに始め最後まで取り組むことができました。

取り組めたこと以上に、今まで見えなかったY様の取り組み方が見えてきました。

・角にピタリとあたる様にカードをケースに入れていく

・カードのロゴや向きも合わせながらカードを入れる

・1色ずつ分類していく

あえてイレギュラーな時間を設定したからこそ観察できたY様の特徴でした。

さぁこうなると、私たちの知らないY様らしさ探しが始まります。

普段の取り組みからもY様らしさ探し

普段取り組んでいる課題でも、少し調整を行なえば「新たな一面を知るためのツール」となります。

自立課題の一つを調整しました。(出来ていなかった訳ではありません)

取り上げたのは、3色の色カードを同じ色の指定した場所に分類する課題。

以前は、色を指定するカードを入れる場所の真ん中に掲示していました。

今回は、その指定のカードを角に「ピタリ」と合わせて掲示するようにしました。

しかも、指定のカードが「縦になったり、横になったり」「場所が変わったり」などなど毎日違います。

変化が苦手なY様ですから果たして・・・

写真はある日の取り組んだ結果ですが、見事に指示カードの上に「ぴったり」置くように取り組んでいました。

毎日置く角や向きなどを変えても、期待通りに取り組めています。

視点を変えると見えはじめてきたY様

私たちの事業所が対象にしているのは、重度の障がいで強度行動障害がある方々です。

強度行動障害の方は、「暴れる」「壊す」など行動が派手ですから、どうしてもそのような行動に目が行きがちです。

Y様も例外ではなく、そうだったと感じています。

「自立課題を壊してしまう」「マイルールになってくる」と言う、特異な行動にばかり目が行き、どうやったらやめさせられるかばかりに注目していたと・・・

しかし、実はY様はこれまでの行動の中で「得意で」「好む」行動は見せてくれていました。

そうです!!

マイルールのお話でネガティブな行動として紹介した「ビーズを色分けする課題で色ごとにきれいに並べてしまい、期待される取り組みにならない」は、リフレーミング(言い換え)すると「きれいに並べることが出来る」だったんです。

「出来る場面探し」が支援を作る

ある時、同僚の職員と「見立て」について話しをしました。

ある場面で「課題になる行動」があると、それを改善しようと色々な手を考えるのが支援者です。

しかし、その場面だけを見ていても解決策は見つからないことが多く、行き詰ってしまうのはよくある話です。

その場合、他の場面で「出来ていること」から見立て、探っていくように私はしています。

一見課題の行動とは関係なさそうに見える、別の行動も課題解決の糸口になることがあるんですね。

今回のY様の自立課題の取り組みがまさにそうでした。

「自立課題を壊すこと」や「マイルールになって、期待通りの仕上がりにならない事」ばかりに支援者の視点が向いていたようです。

マイルールで頭を悩ませていたことは、「きれいに並べること」を期待するような課題に調整したら「出来ること」になりました。

しかも、Y様が好む取り組みになったからか、課題を壊していません。

「出来ること」、「すでにやっていること」や「好んでいること」を取り組みの中に活かせれば、利用者様にとって取り組みやすく学びの多い自立課題を提供できると考えられたエピソードでした。

 

最後まで。お読みいただきありがとうございます。

 

お気軽にお問い合わせください。